医学論文の査読(ピアレビュー)の基本と使える英語表現

みなさんこんにちは。アメリカ生活4年目のメディカルライター・翻訳者のYukaです。

10年以上前に論文の査読を初めて依頼されたとき、どうしていいか分からず、自分がそれまでに受けた査読の表現を借りて、なんとか書き上げました。

その時に手元にあればよかったと思うのが「国際論文English 査読・執筆ハンドブック(C.S. Langham著)」です。

日本人の医師や科学者を対象にしたハンドブックで、見出しに一部日本語が使われてますが、中身はほぼ英語で書かれています。初めて査読をする人が勉強するだけでなく、ある程度経験がある人が自分の査読方法を見直すためにも使えると思います。

今回はこちらの本を参考に、査読で気をつけたいことや役立つ英語表現をまとめたいと思います。

査読レポートには決まった構成がある

一般的な査読レポートは3つのパラグラフから構成されます。

  • 1つ目のパラグラフには論文に対する総評

  • 2つ目のパラグラフには研究の手法、科学的な正しさ、論理展開などの主要な問題(Major comments/points)

  • 3つ目のパラグラフには表現や文法など細かい問題(Minor comments/points)

を書いていきます。

査読では、著者に対して批判的・攻撃的にならず、論文の改善点を具体的に伝えるよう心がけます。

査読を行う際の注意点は、論文の受理(アクセプト)や不採択(リジェクト)を決めるのは編集者なので、査読者は採択に関する意見を述べないということです。

論文に対する総評

1つ目のパラグラフでは論文に対する総評を書きます。「論文のテーマ」と「結果のまとめ」の記載は必須ですが、余裕があれば「研究方法やデータの質」「研究の価値」についても触れます。

以下に使える表現をまとめていきます。

論文のテーマ:The authors investigated …と書き始めることが多いです。The authorsの代わりに、著者の名前 et al. とすることもできます。その後はtheyで著者を表します。

結果のまとめ:They found/showed/demonstrated/stated/suggested that …と書き始めることが多いです。

研究方法やデータの質:They used appropriate methods. They presented the data clearly.といった表現が使えます。

研究の価値:The results/findings will be of interest to …のように誰が興味をもつ内容かを書きます。

結果のまとめで使われる動詞について注意点があります。

「研究した」「発見した」「用いた」のは論文が書かれるよりも前に行われたことなので必ずinvestigated/found/usedというように過去形を使いますが、「示す」「述べる」「提示する」show/demonstrate/state/suggest/presentedなどは論文で行われていることなので現在形を使っても大丈夫です。

どこに視点を置くかにより、過去形と現在形を使い分けます。迷う場合は、著者が主語の場合は過去形、論文や図表が主語の場合は現在形にするといいでしょう。

問題点を具体的に指摘する

2つ目と3つ目のパラグラフでは、論文の問題点について具体的に書いていきます。

著者がレスポンスレターを作成するときに、1つ1つ(point by point)回答できるように、最初に「I have the following concerns.」と書き、その下に番号をつけてコメントを書いていきます。

それぞれのコメントの書き方には2つあります。

  • まず問題点をあげ、次にそれをどう変えるべきか書く

  • どう変えるべきかを書いて、本文中の具体例を示す(→問題が複数箇所にある場合に便利です)

「どう変えるべきか」の書き方

どう変えるべきかを説明するときには、shouldまたはneed toを使います。must/have to/had betterは命令調になってしまうので、査読では使いません。shouldは「そうすることをお勧めします」、needは「そうする必要があります」というニュアンスがあるので、レポートの中で適度に混ぜて使うといいと思います。

著者を主語にする場合や(I thinkを使うと語調が和らぎますが、使いすぎに注意します)

  • (I think)the authors should/need to

  • (I think)you should/need to

ものを主語にする場合

  • There should be/needs to be

  • The figures/tables/references should/need to

  • The word “XX” should be/read “YY.”

があります。最後の文のreadは「〜と書いてある」という用法です。

Suggestやencourageを使うこともできます。

  • I (would) suggest (that) the authors do something

  • I (would) suggest doing

  • I (would) encourage the authors to do something

  • I think it would be a good idea to do something

査読では著者に対してたくさんの指示を出すことになりますが、いろいろな表現を使い分けることで、命令調になることを防ぐことができます。

追加のヒント

何ページの何行目という表現:on page X, line Yのように、前置詞はonで、複数行にわたるときはlines Y-Zとします。行番号がなくパラグラフしかわからない場合はin the first paragraph on page Xという表現を使います。

論文の項目を指す表現: in the Abstract(抄録では)のように、in theをつけて大文字から始めます。

一方、図表を表す場合にはtheをつけずに、in Figure 2、in Table 3と大文字から始めます。

ピアレビューでは著者に自分の名前が知られることはありませんが、筆者が前向きな気持で論文を修正できるように、できるだけ礼儀正しく、具体的に指示を伝えることが大切だと思います。

参考:国際論文English査読・執筆ハンドブック C.S. Langham著

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