DeepLを使って医学論文を日本語から英語に翻訳する?

こんにちは。アメリカ生活4年目、メディカルライターとメディカル翻訳者のYukaです。

AIの台頭によりライティングや翻訳の仕事の内容が変わっていくのではないか、需要が減るのではないかという話をいろいろなところで聞くようになりました。

翻訳とライティングを専門にしている立場からは、検索機能としてAIを使うことはあっても、AIにできないことも多く、人が手を入れないとちゃんとした商品にはならないだろうと考えています。

また、個人レベルで利用するかどうかはそれぞれの人が決めればいいと思いますが、現時点で仕事でDeepLやAIを使うのはリスクが高いと思っています。それは剽窃(プレイジャリズム)、情報漏洩、情報の正確性などに関する懸念があるからです。

先日、日本語で論文を書いて、それを自分でDeepLやGrammarlyを使って英語にする研究者が増えているという話を耳にしました。

そこで今回は、日本語で書かれた医学論文をDeepL(無料版)に入れると一体どのようなものが得られるのか、自分でも試してみることにしました。

使ったのはJ-STAGEという、国立研究開発法人科学技術振興機構画が運営する論文検索サイトです。日本語で書かれたオープンアクセス(だれでも無料で全文が読める)の臨床論文をいくつか探して、その一部をDeepLで英訳してみました。

DeepLによる医学論文の英訳

自然な英文に見えるけれど意味がわかりにくい、というのが全体的な印象です。原文が曖昧な場合、そこから大きくはずれないように、あえて曖昧さを残して訳しているのかもしれません。詳しく見ていくと次のような問題があることがわかりました。

論理展開の問題

1、原文からずれていることがある

原因と結果が逆になったり、ものごとが起きた順序が逆になっていることがあります。

2、文の切れ目が不自然

原文が長い場合に、不自然なところで文が区切られていることがあります。

文章単位の問題

1、受動態が目立つ

日本語は主語がないことが多いので、訳文も半分以上が受動態になっていました。

2、主語が長い

これも日本語の文の特徴がそのまま残ってしまっていて、読みにくい理由の1つになっています。

3、分詞構文やin whichなどの修飾節が多い

日本語には前提のような表現が多いため、どの文にも修飾節が使われて、冗長な印象につながっています。

4、意味の違う前置詞が使われている場合がある

前置詞が間違っていることがあります。特に略語・頭字語が使われている場合に、略語が何をさすのかDeepLにはわからないので適当に訳されてしまいます。

これらを踏まえて、DeepLで医学論文を英訳した場合には、以下の修正ステップが必要になります。

DeepLで英訳した論文の修正方法

1、内容を確認して、論理展開を整える。

2、できるところは受動態を能動態に変える。

3、主語を短くする。

4、冗長な部分をカットする。

さらに、

・論文全体を通して用語が統一されているか

・文献が引用されている部分では、文献の内容と訳文が乖離していないか

を確認することも必要です。

このように、全体的に修正や確認が必要なので、英文が書ける人にとっては、最初から自分で訳すのとあまり変わらないかもしれません。

一方、英文が書けないという理由でDeepLを使う場合には、訳が間違っていても自分では気づけないというリスクがあります。

DeepLを効率的に使うには、まず日本語の文をできるだけ短くして、略語・頭字語を使わず、誤解の余地のないものに書き換えてから、DeepLに入れるとよいかもしれません。実際、抄録の場合は一文が短いので、あまり違和感のない訳が出てきました。

今後どのくらい改良されるのかは不明ですが、現時点では日本語論文をそのままDeepLに入れるだけでは不十分で、訳文または原文の修正作業が必須であることがわかりました。

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