読み手への気配りの大切さ
こんにちは。メディカルライター&医師のYukaです。
今日は、私がメディカルライターとして、まずはクライアントに、そして雑誌の編集者・査読者に、最終的には一般読者に満足してもらえる医学論文を書くために気をつけていることをご紹介します。
医学論文は、研究者が自分たちの行った研究の成果を世の中に発表するためのものです。これまでに発表されたことのない内容で、その分野への影響が大きい研究ほど、著名な雑誌に掲載される確立は高くなります。また、その分野の権威である人物が著者に入っている場合は、著名な雑誌に掲載されやすい傾向があります。ただ、メディカルライターはデータや著者の選択には関わらないため、手元にあるデータをどれだけ魅力的な形に作り上げられるかがライターの腕の見せどころです。
読み手に違和感を与えない
私が一番気をつけているのは、読み手に違和感を与えない文章を書くことです。
私自身、査読者として雑誌に発表される前の原稿を評価したり、他の人が書いた原稿をチェックしたりする機会がありますが、読んでいくうちに小さな「違和感」が積み重なり、それが「不満」につながり、結果的に論文全体の印象が悪くなるという経験があります。
それでは、どのようなことが読み手の「違和感」や「不満」につながるのでしょうか。
1.著者による造語
一般的に使われていない用語の使用は避けるのが無難です。特に抄録には見慣れない用語を使わないようにします。グループ名など、どうしても造語を使わなければならない場合は、本文で最初に登場したところで定義するだけでなく、結果や考察でも説明を追加します。
小説を読んでいて登場人物の名前を見てもだれのことかわからず、前を読み返した経験はありませんか?それと同じように、見慣れない用語は一度だけ定義すればいいわけではなく、前に戻らなくてもわかるように途中で読み手にヒントを与えるようにすることが大事です。
2.フォントの種類や大きさがふぞろい
投稿先の雑誌の著者ガイドラインを確認する必要がありますが、英語の論文の場合はTimes New Romanの12 pt、ダブルスペースで書くのが一般的です。ダブルスペースの方法は人によって違いますが、私の場合はWordで「行間」を「固定値24 pt」にしています。表はダブルスペースにはせず、少し小さめのフォントにして、データの種類に合わせて、テーブルごとに印刷の向きを縦か横に変更します。
本文や図表では、フォントの種類や大きさを統一する必要があります。急にフォントが変わったり、行間の幅が変化したりするのは、ささいなことのようですが、読み手にストレスを与える原因になります。
3.イントロダクションやディスカッションが長すぎる
論文のメッセージと無関係な内容を、イントロダクションやディスカッションに含めないようにします。イントロダクションは読み手の興味を引くためのもの、ディスカッションは論文の重要性を強調するためのものなので、テーマと関係していても、そのような役目を果たさない内容は書かないようします。
4.背景の説明が不十分
著者は当然と思って書いていることでも、読み手に意図が伝わらないことはよくあります。少し時間を置いて読み返して気づくことや、共著者に指摘されてはじめてわかることもあります。意味のわからない文の多くは、「前提となる背景」がきちんと述べられていないことが原因です。少し内容を補ったり、順序を入れ替えたりするだけで解決することも多いです。
読み手が「どういうこと?」と途中で止まったり前に戻ったりすることがなく、最初から最後まで一気に読める論文にするのが理想です。そのためには、読み手の立場にたち、無駄な情報を省き、必要な情報を補いながら書いていく必要があります。
読み手に満足してもらえる論文を目指す
私自身、社会人になって20年くらいたちますが、仕事における気配りの大切さに気づいたのは、恥ずかしながら最近のことです。以前は、すべてのことに正解・不正解があると思っていて、正解を目指すような働きかたをしていました。最近になって、求められているのは「正解」ではなく「満足」だということに気づきました。論文をついても同様に、基本的なルールや投稿規定を守った上で、「正しい論文」を目指すのではなく、読み手の気持ちを考えることで、読みやすく、わかりやすい論文になるのではないかと思います。