機械翻訳を使ったメディカル翻訳のメリット
みなさんこんにちは。
メディカルライターとメディカル翻訳者のYukaです。
翻訳を始めてから日英、英日の両方の仕事を受注していますが、国内の翻訳会社からいただくお仕事はCATツール使用、機械翻訳(MT)併用の案件が多いです。
国内の翻訳会社の単価は海外の翻訳会社に比べるともちろん安いのですが、MT併用の場合も併用でない場合も同じ単価なので、世間で話題にされている「安いMTPE」ではなく「フルPE」と呼ばれるもののようです。
以前に多くのベテラン翻訳者さんが「MTを見て翻訳していると翻訳力が落ちる」とおっしゃっていたのを聞いて以来、MT併用案件を受けることにどこかで引け目を感じていました。
最近入会した「翻訳カフェ」の津山逸先生のご講演のアーカイブで、MTに引っ張られやすい人とそうでない人がいるかもしれないという話を聞きました。
津山先生は大ベテランのメディカル翻訳者ですが、今回初めてお話しを伺い、翻訳の進め方や英日と日英の両方向の翻訳をされてることなど、勝手に親近感を持ってしまいました。理系出身の方が、翻訳についてお話しされるのを聞く機会がこれまであまりなかったのですが、翻訳を真剣に捉えながらも少し距離を置いていらっしゃるような姿勢が新鮮でした。
MTの話になると何かと感情的な議論になりがちですが、便利なものがあれば使いたいというのは人間の本来の姿ではないでしょうか。ただ私もAIライティングには慎重な姿勢でいるので、どうしてもMTを使いたくないという方を否定するわけではありません。
私は人の書いた日本語や英語の文章を直すことがそれほど苦ではないので、MT訳を参照しながら翻訳することは気になりません。むしろ下訳があるのは楽だし、どんどん直して文を整えるのが楽しく感じることすらあります。
個人的には翻訳は「ソース言語を理解する能力」と「ターゲット言語の作文力」だと考えていて、MTを使うことでそれらの能力が落ちることはないだろうと思っています。
もしそういうことがあるなら、原文を含め、「おかしな日本語(英語)」を読むこと自体が有害ということになるのではないでしょうか。
普段のインプットがMT訳だけならば大きな影響を受けることがあるかもしれませんが、それ以外のインプットもある普通の状況であれば、それほど心配する必要はないと思っています。
MTやAIが広く使われることによって言語がどんどん変化すると言われるこの世の中で、「正しい日本語(英語)」だけに囲まれて生きていくことがそもそも難しくなっているのではないかとも思います。
私がメディカル翻訳で大事だと思うのは、「原文の内容を正確に反映」「論理展開に矛盾がない」「用語が統一されている」ことです。さらに「原文の明らかな誤りを指摘する」ことです。またplain languageの使用を心がけているので、翻訳でも凝った表現や難しい言い回しは使いません。MT訳は、こういった作業の邪魔をするものではなく、翻訳を効率化してくれるものです。
私が普段使っているのは医薬専用のMTなので、単語レベルの精度がとても高く、文章レベルでもある程度の質が保たれています。またメディカル関連の仕事のみを受けているので、ほとんどの場合は原文の内容をある程度理解できる状態で翻訳しています。
こういった状況をふまえて、メディカル翻訳に携わる私がMT併用の翻訳に好印象を持っている理由を書いていきます。
MT訳を辞書として使える
専門用語を調べる手間が省けます。すでに知っている単語の場合はそのまま使うことができます。知らない単語の場合でも訳語を参考に裏付けを取るほうが一から調べるよりも楽です。
訳抜け防止に使える
MTは基本的にはすべての単語を落とさずに訳してくれるので、自分の最終訳はMT訳よりも短くなることが多いです。ただ、MT訳と自分の訳を見比べることで、自分が飛ばしてしまった要素や微妙なニュアンスを後から追加することもできます。
数値や日付を間違えずにすむ
いまだにJuneとJuly、NovemberとDecemberなどをうっかり間違えそうになるので、MT訳を見て確認することで安心感があります。
MT訳があることで安心感がある
MT訳をそのまま採用することはほぼありませんが、すでに下訳があることで締め切りが短い場合の精神的負担が減る気がします。
今回は私が考えるMT併用のメディカル翻訳のメリットを書きましたが、もし単価が今の半分になったら引き受けないだろうし、MTなしで単価が2倍の案件があったらもちろんそちらを選ぶと思います。そして「安いMTPE」をだれかが引き受けなければならない状況には大きな問題があると思います。
MT併用案件が今後どのように扱われていくのか気になるところです。